2011年5月29日日曜日

班目加奈の研究。

私がトランペットを習っている班目加奈先生から、犬の供養のために直接CDを買った。喪に服するためにはやはり、上質の音楽が必要だからだ。
1枚目の「vocalise」と2枚目の「Fantaisie」を買ったのだけど、今日は1枚目の16曲について述べる。(この間、赤ワインをガブ飲みする。べろんべろん。)
そんなわけで、1曲目と2曲目にアルビノーニの楽曲を持ってきたところにイタリアルネッサンスの残り香を感じてしまうんだけど、彼が糖尿病で亡くなったヴェネツィアも今日の松戸のよーに大雨が多かったのだろうか?結構、臨場感が出てきた。1曲目の「トランペット協奏曲よりアダージョ」では彼女は、ピッコロトランペットを聴かせる。朝をイメージさせる硬質でガラスのよーな音色だ。当時の宮廷音楽ってこーゆー音が好まれたんじゃーないかなって思う。雅楽で使用する笙(ん?篳篥かもしらんな)を彷彿とさせる非日常の音とも言えるかもしれない。
2曲目の「アルビノーニのアダージョ」は映画音楽でもよく使われるメジャーな曲なんだけど、実際にはイタリアのレモ・ジャッツォットとゆー学者が20世紀中葉に加筆しまくったスコアなので、正確にはアルビノーニの作品ではない。にもかかわらず、現在では「アルビノーニのアダージョ」とゆーとこの曲のことを指し、バイオリンの川井郁子とか寺井尚子などのプレイヤーも好んで演奏している。やっぱし、楽曲として優れているので、今後も演奏され続ける人気曲の地位を保全していくのだろう。班目加奈(呼び捨てでゴメンね!)は、この曲をややアップテンポってゆーか、カラヤン的(?)に楽譜に忠実に吹いたって感じかなぁ。ただ、現在の彼女であれば、もっと繊細に、もの悲しく、枯れたテイストも隠し味として加味した、粋な演奏が可能なのではないかって思う。なお、アダージョは、ゆるやかにって意味ね。
3曲目の「ラルゴ」。ヘンデル作曲のアリア。オペラの第1幕の冒頭で歌われる曲で、2分半とゆー短い時間のなかで彼女のトランペットは奇を衒わずにまっすぐに歌う。フランク・シナトラみたいにシラブルを意識せず、心地よく歌っている。
4曲目。「G線上のアリア」。アリアって、詠唱って訳すオペラなんかの独唱者の聴かせどころの歌のことを言うみたいだけど、ここでは彼女はフリューゲルホルンを吹いている。子供の頃、外で遊び疲れて家路に向かう道すがら。茜色の夕陽。緩やかで心地よい風。そんな記憶をこの曲が想い出させてくれる(場所でゆーと神戸市兵庫区の和田岬あたり)。
ともあれ、管楽器ってトーンが命なんだなって、再確認ができる名演だ。
5曲目はシューマンの「トロイメライ」。これもフリューゲルホルンの演奏。「お母さーん」って感じの優しくもグリップの効いたプレイで、音程が凄くいいなって思う。平易な曲を安心して聴かせられるって、ひょっとしてこれは私が目指すべきジャンルなのかもしれないなぁ。
6曲目。プッチーニの「私のお父さん」。お母さんの次はお父さんなんだ。ピアノ伴奏とラッパの最初のフレーズのつながりが素晴らしい。すーっと入っていくわけね。これも2分間のアリア。いとも簡単に吹いているけど、華のある演奏に仕上がっている。音は今より若々しい感じだな。
7曲目と8曲目はセットなのかな?マルチェロの「トランペット協奏曲ニ短調よりアダージョ」と「アレグロ」。アレグロは、早くってこと。
末期の白血病を患った音楽家と別れた妻が晩秋のベネツィアで再会するって映画で使われた楽曲で、やっぱり切ない短調のメロディーが流れる。ここでは彼女のテクニック(リップスラーとかね)も十分に堪能できる。
9曲目はモーツァルトの「救世主への祈り」。彼が死ぬ年の初夏に、ウイーンの温泉保養地で書かれた作品である。起伏のないごく普通の、しかし上品な作品なのだが、何でこの曲を彼女が取り上げたのかが判らないので、今度、聞いてみーよおっと。
10曲目はマルティーニの「愛の喜び」。マルティーニの本名はシュワルツェンドルフ。なのでドイツ人。18世紀初頭においても、ミュージックシーンはイタリア優勢だったことの証左がこの芸名にも現れているんだなぁ。このメロディーも有名で、私が知ってるぐらいだから相当にメジャーなんだなぁ。小学校か中学校のとき、校内放送で流れていたような気がするよ。この曲だったら、私でもなんとか吹けそうだ。チャレンジしてみるかぁ!
そうそう、演奏はさらーっと軽めに吹いていたよーだ。心地よさに軸足を置いてる。そんなイメージ。
11曲目。ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」。フリューゲルホルンで奏でる。ラヴェルの曲って、こーゆーのが多いなあ。フレンチブルーをイメージさせるメロディーってゆーのかな?
この作品は彼が24歳、パリ国立音楽院に在籍していたときに、スペインのヴェラスケスの絵画に触発されて書いた曲らしい。パヴァーヌって、16世紀から17世紀にかけて流行った宮廷舞曲で、その特徴はゆるやかで典雅で荘重なんだって。
彼女は本当に、この曲をゆるやかかつ典雅に吹いている。しかも基本に忠実に!
12曲目はシューベルトの「セレナード」。昼メロ、不倫、禁断の愛…。フレーズの頭は、そんなイメージがピッタリくるエロい曲だ。思わずパンツを脱いでしまいそうになるのは私だけではないだろう。
ピアノの好サポートが光るなか、彼女は淡々と超然と吹く。ちょっとノーテンキな感じがしないでもないけど…。まだ、若かったんだろう、録音当時は…。
13曲目もやっぱりシューベルトの「アヴェ・マリア」。敬虔な祈りの歌。まっすぐなラッパの音。外は大雨だけど、家の中は快適。心に潤いを。明日に光を。全くもって、上質な音楽を供給してるなぁ。
14曲目。サン・サーンスの「白鳥」。なんだか、「アヴェ・マリア」に似た作風とゆーのかな、そんな気がしてきたよ、この「白鳥」。さっきも使ったけど、班目加奈の音楽は一言で言うなら、品のいい上質な音楽ってことだな。なるほどなるほど、これがクラシックの世界なんだな。ちょっと判ってきたぞ。
15曲目。「ヴォカリーズ」。ラフマニノフの作品。やっぱ、ラフマニノフは次の展開が読みづらく全く常識的でないので、キャーッ、天才なんだなーって思うことしばしば。
彼女はトランペットの持ち味をこの曲に注ぎ込んで、見事に結晶させたって感じのパフォーマンスを示現している。ラフマニノフ同様、私の先生も素晴らしいんだなーって、心からそう思える魂の入った名演だよ、これは。そして、ロシア人の創る曲って、どこかしら土の匂いがするってのはどうしてなんだろうか?みんな百姓だからだろうか(ンなわけないよ、ねー)?
16曲目。サティの「ジュ・トゥ・ヴ」。テレビのCMでもしょっちゅう流れている佳曲。作曲家サティがモンマルトルのピアノ弾きだったころに創ったシャンソン。
ここでは、伸びやかに明るく、彼女は少女のように吹いている。中学生くらいの女の子がメリーゴーランドに乗って、はしゃいでいる姿が目に浮かぶ。
ハッピーエンドで終演を迎える最後の曲として、ピッタリなサティで、おしまい。遊園地の順路を辿ってニヤニヤしながら歩いて、いつの間にか出口から外に出てしまい、えーっ、もう終わりなのーって印象だな。陳腐な喩えだったらゴメンネ。

ともあれ、このCDは岩本家の家宝になるかもしれない。

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